メンタルセミナーが終わったときの事です。
「私の弟が10年間働かないでいるのですが、ぜひ相談に乗って頂けないでしょうか?」
と、セミナーに参加されていたMさんが、私に駆け寄り声をかけてきてくださいました。
そこで、後日岡山吉備高原にあるカウンセリングルームで、Mさんの弟「Kさん」とお会いする約束をしたのです。
お約束の日、Kさんは母親と共にカウンセリングルームに来られました。私はゆったりとした大自然の流れの中で、Kさんのお話を聴かせていただく事にしました。
Kさんは、大学を卒業してから4年間は普通に就職されていたとの事でした。ところが、仕事の担当部門が変わった事をきっかけに、退職されてしまったとの事で、
それ以来、10年間ほど働いていないというのです。
働いていないこの10年間のKさんの心の葛藤は凄まじく、「早く働かないといけない。」「仕事のことを考えると苦しい。」「親に申し訳ない・・・。」などの思いが気持ちを支配していたようです。
そのためなのでしょうか、“不安”“焦り”からイライラしてしまい、現実から逃げだすように自転車を飛ばしていく“本屋さん”が、唯一、Kさんの落ち着ける場所になっていたのです。
「本屋へ行けばひと時でも仕事をしていない事を忘れられるから・・・。」そう話すKさんの苦しそうな表情が印象的でした。
このような状態になってしまうと、人はどんどんマイナスの発想になってしまいます。実際Kさんは「どんな仕事についても、すべてうまくいかないのではないだろうか。」と言う思考に囚われてしまい、
自信がもてないと話されました。
ここまでの話からKさんは、『働いていないのではなく、働けない状況にまで追い込まれてしまった。』のだと思いました。
一回目のカウンセリングを終え、二回目に備えて私はKさんにあるお願いをしました。それはKさんが自分らしく歩んでいくために、どうしても必要な取り組みなのですが、
Kさんに自分の“成育史”を書いていただく事をお願いしたのです。
“成育史”とは今までの人生を1年ごとに区切り、印象に残っている出来事や、ご両親を中心とした周りの人々から言われた言葉を思い出し、書き出してもらう事です。
そして、その時の自分の気持ち・感情・心境を思い出して、その事を現在どう感じているか、また、現在の自分に影響していないのかを整理するための方法で、自分の心の中にあるものを
一つ一つ丁寧に吐き出し、書き出す作業をお願いしました。
私はその“成育史”を元に毎週一回のカウンセリングを通して、Kさんに“ゲシュタルト療法”や“認知行動療法”などの、様々な心理療法を取り入れました。
また、カウンセリング終了毎にカウンセリングルームが建っている山の大自然の中で、『2分間スピーチトレーニング』、こころの栄養とエネルギーを充電する『プラスストローク療法』を
行ってもらい、自信を取り戻してもらうカウンセリングを行いました。
さらに“心”と“カラダ”を癒すため『農作業療法』などを進んで取り組んでいただきました。大自然の浄化力をKさんに応用したのです。
このような取り組みが半年過ぎた頃から、Kさんに、就職活動に向けての準備をしていきたいという気持ちが芽生え始めてきました。そこで私はKさんの地元の求人広告、求人雑誌をみながら
- 職業の選択の考え方
- 履歴書の書き方
- 電話応対のアドバイス
- 面接のアポイントの仕方
- 面接のロールプレイ
など、すべてをトータル的に実習を何度も繰り返しながら、就職に向けてのカウンセリングを行いました。
そしてKさんは少しずつ自信をつけて行かれました。
この時点でも、Kさんの気持ちは「働きたい」と「逃げ出したい」が50%ずつで揺れ動いていたと思います。
このような取り組みと心理療法とを並行して、更に半年が経った頃です。その頃の求人に、よく「フォークリフト免許取得者優遇」との条件が書かれていました。
Kさんは大変迷った後、このフォークリフトの免許の取得に挑戦する事を決心されました。そして、見事この免許の取得に成功し、この事はKさんに思いがけない効果を生み出しました。
Kさんは自信を取り戻し、具体的に就職活動をする意欲が湧いてきたのです。人は確かに言われたからと言って変わるものではありません。
自らが行動を起こそうと思わない限り、基本的に人は変わることは出来ないのです。
まさに、「自信があるから行動するのではなく、行動するから自信がつく」という事を、自らが「納得」し「行動」し「体験」されたのです。
そして、Kさんは物流の管理をする会社に入りました。最初はうまくやっていけるかどうか、続けて動けるかどうか心配されていましたが、
日ごとに仕事に慣れていき、もともと体を動かすことが好きだったので、今では毎日、張り切って休むことなく働いておられます。
この事を彼より喜んでおられるのはKさんのご両親様です。
そのご両親からの感謝のお手紙を頂きましたので、その一部をご紹介させて頂きます。
先生のご指導のお蔭で働き始め、毎朝お弁当持参で週5日、一日も休まず残業もこなし、張り合いよく出勤致しております。11年間、家にいたことが嘘のように、よく働いてくれています。
遠い昔は当たり前のように言っていた「いってらっしゃい」「おかえりなさい」を11年ぶりに気持ちよく息子に言ってあげられることの嬉しさを、今、夢のように感じています。
毎朝のお弁当作りもウキウキ楽しくやっています・・・・・
私はこのような様々なご相談を通して、どの人にも無限の可能性があり、自分らしく歩んでいくことが出来ると確信させていただいく日々を実感し、過ごさせて頂いております。
Kさんのケースは、働けないことを周りがうるさく責め立てることをなくし、なぜその様な状況になっているのか、またそうせざるを得ない気持ちや感情を聴かせて頂き、
その状況や苦しみをそっと見守る辛抱強い愛で、完全受容していくことにより、勇気と希望と自信を取り戻していかれました。
相手の歩幅に合わせて『共に歩むカウンセリング』をさせて頂く事がとても大切なのです。
吉備高原カウンセリングルーム 株式会社I.B.P総合研究所 代表取締役所長 本城稔